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みみうち「次のステップに進むために1」

2023年1月13日更新

  地域支援通信 vol.17 小学校就学までに身に付けておきたいこと  2022.9更新   

 

イラスト入りA4版はこちらからどうぞ 17 小学部に就学するまでに[PDFファイル/480KB]

 

 様々な研修会や教育相談で、「次のステップに進むまでに、身に付けておいた方が良いことは何か」という質問を多く受けます。どのような進路を選択し、次のステップに進んでいくのか、将来をイメージすることは大切なことです。保育園・幼稚園などから小学校に就学するにあたって、どんなことを身に付けておいたら良いか、不安に感じることも多いと思います。様々なことが考えられると思いますが、ここでは「きこえにくさに関わること」を中心にお伝えしたいと思います。

 

1.生活習慣を大切に(きこえにくい子だけではないですが…)

 きこえにくい子は、耳からの情報をとらえることが難しいです。私たちの周りにはたくさんの音があふれています。風の音やいすを引く音、机に何かを置く音など、身の回りの音のほか先生の声や友達の声といった様々な音が同時に「聞こえて」きます。それらの音の中から、話し相手の声など自分に必要な音を、「聞きたい音」として選び出して「聞いて」いるのです。きこえにくい子は、周りの雑音から特定の聞きたい音(人の声)を意識して選び出す必要があります。

 まずは、「聞く」条件として、生活リズムと人の話を聞こうとする姿勢を整えましょう。そのためには、日常の基本的な生活習慣を身に付けることが大切です。決まった時間に起き、決まった時間に寝ることは、大切な睡眠を確保することです。夜更かしして寝不足だと、ボーッとして調子が悪く人の話を聞こうという気になれません。まして、意識して特定の人の声を選び出すのは難しいでしょう。朝ご飯を食べ、排せつを済ませ、身支度を整えるという生活のリズムができると、体の調子も整い、落ち着いて人の話を聞ける状態となり、意識して人の話が聞く姿勢が身に付いてきます。

 自身の経験を通じて、また、大人の動きや同じ活動をしている友達の様子を見て、どのように行動するとよいか、少しずつ学んでいきます。聞こえにくい場面になっても、似たような経験があると同じように行動できたり、見通しをもって行動したりできるようになります。何が行われるか分からないと不安になりますが、経験していなくても似たような状況だと予測することができ、落ち着いて活動に参加できることにつながります。日々の決まった行動を順序良く行うことで、少しずつ先の見通しを持つことができ、新しい環境で対処を考えたり行動したりできるようになります。

 一人で食事ができるように、食器の使い方や簡単なマナーも身に付けておくとよいでしょう。自分の身の回りの整理整頓や体を清潔にすること、身だしなみを整えることも大切です。一人でトイレに行って清潔に身の回りを整えることができなければ、学校生活で他の子たちと集団生活を送るのは難しいでしょう。

 これらの生活リズムや習慣はご家庭の協力が必要です。小学校に入学するまでに生活習慣を整え、リズムを作っておくことです。小学校は時間割に沿って、集団の中で様々な活動を行います。まず基本となる生活リズムを整え、子の「聞く条件」を整えましょう。

 

 2.聴く態度を身に付ける

 雑音も必要な情報である言葉も、同じように「聞こえ」ます。まずは、周囲の音環境を整えましょう。テレビやラジオなどが鳴っていると、話し声と混ざって何を聞くとよいか分からなくなります。音を消して、静かな環境で人の声を聞かせましょう。雑音はカーペットを敷いたり、吸音ボードを張ったりして抑える方法があります。物がこすれたり置いたりするときの音も、きこえにくい子にとっては耳障りな音です。できるだけ、大きな音を出さないように丁寧に扱うよう心がけましょう。また、補聴器や人工内耳など聞こえを補う装置を使っている場合は、聴覚保障ができるよう、電源切れや故障を確認する毎日のチェックや手入れは大切です。

 また、きこえにくい子にとって、どこから音が聞こえているか分かりにくいものです。話すときはしっかり注目させましょう。話す方を向いていないときは、肩をたたいたりして注目させ、目を見つめ合いながら話しかけましょう。聴覚からの刺激をうまく受け止められない子は、手をつないだり肩をたたいたりすることで、ほかの感覚を使って「聞く」意識を刺激できます。話す人に注意を向けられるよう、指で話す人を示したり、話す人に合図をしてもらったりして、話す人の顔を見るよう促しましょう。大勢の人がいる場合は、だれが話しているのかを自分で確認できるようになることも大切です。話している人に注目し、聴こうとする態度を身に付けましょう。

 人の声を耳に届けるためには、話す人が、大きめの声で、聞き取ることができる速さで、はっきりと話すことが大切です。また、目線が上だと疲れやすいので、話しかける高さは子の視線の高さに合わせ、口形が見える位置で話しましょう。逆光になると顔が影になってしまうので、話し手が光を受けて話しましょう。顔からは表情や口形など視覚的情報を読み取ることができます。

 子が印象的な体験をした時、すぐに言語化して言葉を返したりまねさせたりすることで、印象に残った事柄が概念として残ります。興味をもっていることを的確につかんで、共感をもって話しかけてください。言葉は自分から「覚えたい」ときに、「覚えたい」と思う言葉を覚えるのです。人とのかかわりあいの中で、「分かった」ときに「覚えたい」という気持ちが芽生えます。子どもの興味に合わせた言葉かけが、「聞きたい」気持ちを刺激し、「聞く」力を育てます。

 また、分かったかどうか、確認することも大切です。集団の中での一斉の言葉かけで伝わらないことも、個別に言葉かけをすることで「分かった」につながります。比較的聴力が良い子は音に対する反応が良いため、かかわる人が「きちんと聴くことができ分かっている」と思いがちです。聞こえにくさは他者と比較することが難しく、きこえにくい子自身が自分の聞こえにくさに気付けない場合があります。途中まで聞いて分かった気になってしまったり、聞こえている範囲だけで判断して、情報を聞き逃してしまったりすることがあります。どこまで分かったのか、何が分かったのか、確認することが大切です。

 

3.文字や数に関心をもつ

 日本語は音声言語なので、聞こえにくいと情報が正確に伝わりにくいです。きこえにくい子は、音声言語を使った情報から「分かる」ためには、制約があるということです。文字や数に興味をもつことは、視覚的情報を捉えることにつながります。

 身の回りのものに名前があることを知るのは、様々な事象を知り、表現したり、物事を考えたりすることの始まりです。実物や写真や図などに文字で名称を貼ることで、それぞれのものには名前があることを知ることができます。そこから名前だけでなく、そのものの色や形などの状態にも興味がもてるようになります。様々な動きや抽象的な現象などにも言葉があり、時間の概念や感情などにも広がっていきます。

 例えば、絵日記などで食事風景が描かれていた場合、「昨日」の「夕食」や「いとこの」〇ちゃんなど絵や写真だけでは表現が難しいですが、文字で書き込むことでより詳しい情景がやり取りできるようになります。「熱い」たこ焼きを「8コ」を「ハフハフ」しながら食べたことなど、本人が伝えたいことを具体的に文字や数に置き換えて表現しましょう。絵や写真などで表現するのが難しい「昨日・今日・明日」などの時間の概念や「熱い、寒い」などの状況、「わくわく、楽しい」などの感情などを、文字で補うことでイメージがつかみやすくなります。また、「いとこの〇ちゃんが大きなたこ焼きを食べた」など、自分が食べたたこ焼きを基準として大きさを比べ言葉をのせていくことで抽象的な概念が育っていきます。

 まずは、文字や数字が意味のあるものであることを知らせ、興味を持たせましょう。身の回りの文字や数字を読んだり説明したりして、大切な情報であることを知らせてください。

 

 小学校に入学すると、これまでの生活の中で使われていた言葉だけでなく、学習で使う言葉が必要になってきます。小学校では、様々な事柄が言葉によって指示や説明されます。入学までに生活の中で使われる言葉を習得し、様々な事柄や様子を言語化して経験の範囲でやり取りができる機会を多くもうけましょう。

 きこえにくい子は音声言語である日本語を自然に獲得するのは難しいです。言葉が音で表されると聞き取りづらく、あいまいに聞こえてしまうためです。言葉は様子を表すだけでなく、思考するための道具でもあります。言葉を相互に関連付け、順を追って整理したり、その時の気持ちや印象を表現したりできることで、学習に使われる言葉への方向付けができます。言葉を育てるためにも、聴く姿勢を整え、情報を取り入れる意欲を育ててほしいと思います。

 

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