次のステップに進むまでに、身に付けておいた方が良いことの第3弾は、中学校進学までに身に付けておきたいことです。中学生は、思春期の入り口に立ち、自分の障害と向き合っていかなければならない時期でもあります。また、中学校では小学校と異なり、教科担任制となり、教科ごとに先生が変わるようになります。人の話し方や声の出し方、高さなどによって、聞き取りやすさが異なります。また、きこえにくい子どもの対応に慣れている先生だけではありません。コミュニケーションの問題が日常生活の中で起き、それが続くと自信を失うこともあります。中学校では特に、人との関わりの中で自尊感情を高めていくことが大切です。
きこえにくい子どもの多くは、補聴器や人工内耳を着けています。どうして補聴器や人工内耳を着けなければならないのかを知ることは大切です。また、自分の聞こえていない音が周りの人は聞こえていること、自分にも聞こえにくいということに気付くようになります。しかし、「難聴だからうまくできない」のではなく、「難聴があっても、支援や協力があればみんなと同じように学び、考え、生活できる。」と思えることが自尊感情を高める一つです。
自分の聞こえにくさを理解するとともに、どんな場面でどんな工夫をすれば聞き取りやすいのかを知り、そのことを周りに説明できることは、周りの理解や協力を得るためにも大切です。
例えば、低学年で、補聴器や人工内耳を着けたときと、裸耳での状態での聞こえ方の違いを実感させたり、いろいろな音(環境音など)クイズなどして音探しをしたりするのも良いでしょう。高学年では、耳鼻科受診時に聴力検査の結果(オージオグラム)をもらい、スピーチバナナと合わせて自分の聞こえの状態を知ることで、「聞こえにくさ」を客観的に理解でき、人工内耳や補聴器の必要性も考えることができます。また、補聴器や人工内耳の機種やメーカー名などを覚えると修理に出したり失くしたりして店や病院、役場に説明するときに役立つ学習の一つです。【みみうちきこえにくい子に指導する方に知ってほしいことVol.16参照】
補聴器や人工内耳のモードの切り替えや、電源が切れたら自分で電池(充電池を含む)を替えるなど基本的な扱いが一人でできるようにしましょう。
例えば、低学年であれば、電池チェッカーで電池の残量を調べることで、視覚的に電池を交換する必要があるか教師が一緒に確認します。そこから徐々に、自分で電池交換のタイミングを計ることができるようにします。補聴器であれば、先生に補聴器で聞こえる音の状態を確認してもらったり、人工内耳であれば送信コイルにコイルチェッカーを当てて機能しているか確認するなどしたりすることを習慣づけると良いでしょう。補聴器・人工内耳チェック表など作成して毎日活用するのも良いでしょう。また、手入れや保管方法もしっかり覚えておくように指導しましょう。【みみうちきこえにくい子を指導する方に知ってほしいことVol.14参照】
地域の学校に通う場合、集団補聴援助システム(ロジャーなど)を使用していることも多いでしょう。集団補聴援助システムの必要性を理解し、周りの人に使ってもらえるようお願いする方法を練習しておきましょう。送信機と受信機をリンクさせ、きちんと聞こえているかどうか確認する習慣をつけましょう。また、先生の話し方や声質によって聞き取りやすさが異なるため、使用の有無やボリュームを変えるなど臨機応変に対応できるとなお良いです。
小学校高学年から特に問題が大きくなるのがコミュニケーションです。友人同士の話題の中でも情報量が飛躍的に増えてきます。また、授業でも難しい語句が増えて学習が難しくなってきます。
発問をよく聞いて答えたり指示に従って行動したりできるか、どの場面(小集団、全校集会など)でどんな方法(読話、書字、手話など)を使えばコミュニケーションが容易になるかを知ることは大切です。また、話の内容を理解するための背景知識や文脈が共有できているかを確認する必要があります。さらに、身近な話題やニュースなどにも目を向けられるように、普段の生活の中で意図的に話題の一つとして取り上げ、知らせたり関心を持たせたりすることも大切です。担任がその児童について実態把握を行い、コミュニケーションの改善のポイント『どのようにすれば聞き取りやすいか(理解しやすいか)』を把握し、その方法を子どもと共有し、どのようにするとうまくできるかを一緒に考えると良いでしょう。【みみうち 初めてきこえにくい人と接するときvol.1,vol7~9】
授業の中でも抽象的な事項が多くなり、学習が難しくなります。また、文中に分からない語句が増えてきます。一つ一つ分からない言葉を調べていくことも予習として大切ですが、「類推して読む力」が必要となります。読書を通して前後の文脈から、また漢字の訓読みや熟語から意味を捉えることができるようになると良いでしょう。
例えば、新出漢字や単語を繰り返し学習するだけではなく、その言葉をもとに文づくりをしたり先生の話の中で頻繁に使って耳慣れさせ、使い方を知らせたりする学習も効果的です。難聴学級であればノートや作文、通信を交流学級とやりとりをすることも良いでしょう。スピーチや読書など継続的に取り組むことは語彙や表現を豊かにすることにつながります。
子どもたちは、好きなテレビやインターネットから興味のあるものについてたくさんの情報を得ます。そして、その中の情報を共有できなければ仲間に入りにくくなりがちです。遊びやスポーツなどの経験を通して仲間づくりをすることも良いでしょう。また、学習の基盤となる言語力を高めるためにも日常生活の中で「聞く、話す、読む、書く」ことは大切です。
例えば、行事などを通してさまざまな経験を積み上げ、その経験を日記や作文などで表現させことで、言葉で表現できる力をつけることもできます。さらに好きなものなどのテーマを決め、調べて言葉や絵や図にしてまとめ、それを発表する機会を設けることも良いでしょう。さらに、自分の気持ちを整理し表現できるように気持ちを表す言葉を知ることも大切です。学校行事などの感情の共有ができる経験を通して、はじめは、「気持ちよかったね」「悲しいね」「悔しかったね」等からだんだんと子どもが使用しない言い回しでの言葉かけ(「爽快だね」「心が落ち込むね」「心残りだね」等)を行ったり、友達の使った表現を真似させたりして言葉と経験を結び付けていくと良いでしょう。
小学校高学年から学習がより難しくなってきます。それは、情報量が飛躍的に増え、抽象的な表現や事象が増えていき、具体的なものを提示することが困難になってくるからです。低学年のころから、宿題はもちろん、日記を書いて「経験を言葉にする」習慣をつけることも大切です。書いてきた日記を掲示し、いろいろな人に読んでもらい、それをもとに話を展開させていくこともコミュニケーションの学習の一つです。また、予習として語句の意味を調べたりその語句を使って文づくりをしたりして活用できるまで繰り返し学習をすることも必要です。また、語句の覚え間違いや言い間違いなどを正すことに抵抗がでないよう、小さいころから反復的に行っていくことも大切です。間違いを正すために必要な方法(書く、聞くなど)も併せて指導すると良いでしょう。
きこえない子どもにとって安心して学習や学校生活が送れる環境は、きこえる子どもたちも同様に安心できる環境です。そして、自分の気持ちを素直に伝えることができる場や人を持つことも大切です。学校の中でも、仲の良い友人がいると思います。悩んだときに話して共感してもらえる人や場所を作ることも大切です。学校の中では、友人、先生であったり、家庭ではご両親やきょうだいであったりするでしょう。また、ろう学校の行事などに参加して難聴の子どもとの交流などを小学生のうちに経験しておくことも成長していくうえでは良いと思います。
「難聴児・生徒理解ハンドブック 通常の学級で教える先生へ」 白井一夫・小網輝夫・佐藤弥生【編著】
「難聴児をお持ちの親御さんへ難聴児の言葉の学習・子育て・難聴理解」 我妻 敏博
※本校のwebページに「みみうち」のバックナンバーも掲載されています。
それぞれの項目の指導の参考になる内容が掲載されている番号を書いていますので併せてご覧ください。