自立活動の指導に悩まれている先生方に向けた、第4弾です。自分の聞こえについて学んでいくことで、他者に対するかかわり方や適切な援助依頼ができるようになります。今回は自分の聞こえに対する理解につなげる内容です。自立活動の時間だけでなく、日常生活の中でも意識して取り組んでみてください。
<自分の障害を知るための指導>
聞こえ方には個人差があり、自分の聞こえにくさを実感するのはなかなか難しいものです。他者と比較することが難しい聞こえを客観的に知るために、自身の平均聴力レベルやオージオグラムの見方を学習し、自分の聞こえを意識できるようにしましょう。
A.自分の聞こえを知ろう(低学年向け)
(1) 補聴器・人工内耳を着けたときと、着けていないときに聞こえる音のちがいを調べる。
(2) 様々な音や言葉を聞かせて、聞こえる音と聞こえにくい音を調べる。
(3) 音源からの距離を変えて調べてみる。
☆ 「ドアの閉まる音」や「サイレン」など環境音を聞かせ、何の音か当てさせるとクイズのようで楽しい活動になります。
☆ 普段の生活の中でも聞き取れない音(知らない音)があること、音源からの距離が遠くなるほど聞こえにくくなることを確認しましょう。
聞き分けが難しい音を知るだけでなく、聞き取りの学習にもなります。身の回りにどんな音があるのか知ることで、気づかなかった音があることを知ることができます。自分にとって聞こえにくい音があることを自覚し、例えば危険回避など周りの様子を見て、行動できるよう促しましょう。
B.オージオグラムを読もう(グラフを学習した子ども向け)
(1) 自分の聴力レベルの検査結果「オージオグラム」の見方を知る。
☆ 縦軸と横軸の表しているもの、〇や×、▲など各グラフがあらわすものを学習する。
(2) 自分の平均聴力を求める。(4分法で求めさせる。)
<4文法の計算法>500Hzから2000Hz の聴力レベルの平均を求める。 {(500Hz)+(1000Hz)×2+(2000Hz)}÷4 |
☆ 自分の平均聴力レベルはどれくらいか、説明するときに使えるとよいでしょう。
(3) 自分の聞こえの特徴を知る。
☆ 音の高さ(周波数)によって聞こえない、聞こえづらいところがあることを確認する。
☆ スピーチバナナと自分の聞き取れる範囲を比べで、聴き取ることが難しい音声を確認する。
※ 具体的な見方は、vol.6「これってどんな意味?フィッティングとマッピング」も参考にしてください。
補聴器・人工内耳を着けていないときと着けているときでは、聞こえ方が変わることを理解させ、生活の中で補聴器・人工内耳を活用できるように指導していきます。また、補聴器・人工内耳はメガネなどと同じように、なくてはならないものであること、きちんと手入れしなければ壊れて使えなくなってしまうことを確認することも大切です。
会話音の成分であるスピーチバナナで、聞き取りにくい音(子音や母音)を確認してみましょう。聴き間違いや聞き逃しの傾向が分かります。普段から聞こえない音があることを本人が自覚し、見て情報を確認したり、聞き返したりしてあいまいさをなくせるようにしていきましょう。
<他者とのかかわりに関する指導>
他者に理解や支援を求める必要があります。自分の障害を他者に理解してもらうために、どのように伝えたらよいのか、また、どの範囲まで知らせる必要があるのか、本人の気持ちを確認しながら方法を考えさせていきましょう。
C.自分の障害を説明し、支援を依頼する
(1) 自分の聞こえを簡単にまとめさせる。
(2) 自分が困っている場面を想起させ、どのような支援が必要か考えさせる。
(3) 支援をお願いするとき、どのような方法や表現で、どのように伝えたらよいか考えさせる。
(4) 場に応じた方法で、伝える練習をする。
支援をお願いするということは、頼りっぱなしにすることではありません。「自分ができることは自分でする」という前向きな意識を持つことはとても大切なことです。
周囲の人に助けられていたことに気づかず、困ったことはないと答える子どももいますが、具体的な場面を想定し、どうするかを問うと困ったと気づく場合が多いです。
支援依頼の方法は、友達との関係やコンビニでの買い物など場によって変わります。聴き返すのか、周囲の人の教えてもらうのか、その場の雰囲気や時間なども考慮して、適した方法を考えましょう。危険が迫っているときなど、その場で依頼する時間はありません。身近な人にあらかじめ伝えておく必要性も確認しましょう。
音声認識や発音に難しさがある場合、タブレットやスマホなどのコミュニケーション援助アプリケーションを活用する方法もあります。小学校高学年になると様々なツールの活用も学習していきましょう。
D.「こんなときどうする?」ロールプレイング
(1) 日常生活の中で起こりそうな他者とのかかわりを劇化する。
a 大枠のセリフを台本にして準備しておく。
b 場の設定だけ提示し、セリフや対応を考え演じさせる。
(2) 役割を入れ替えて演じさせ、それぞれの立場の気持ちを考えさせる。
(3) トラブルにならないためにはどうしたらよいのか、トラブルになったときはどうするかを考えさせる。
☆ 演じないときは、 演じている様子を見て、どう感じたか、自分の考えを発言させる。
話や文章だけでうまくイメージできない子どもは、演じることによって場の状況を捉えやすくなります。aの方法で演じることで状況が分かり、相手や自分の気持ちを考えることができます。生活の中でよくあるトラブルを演じるとその時の自分の気持ちを考え、客観的に自分の言動を振り返ることができます。
bの方法では、繰り返すたびに対応の仕方が変わって、よりよい対応を見つけることができるようです。また、他者の演じる様子を見て、言い方や態度を工夫したり、対応のまずさに気づいたりすることもあります。
教師と対象児でのやり取りでもできる取り組みですが、交流学級の子どもと一緒に考えさせるのもよいものです。お互いが障害について学ぶ良い機会にもなります。